ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「今日は女子会で遅くなるんだったよな?
あんまり飲み過ぎるなよ。」


髪を拭きながらバスルームから修一が出てきた。
女4人だけという嘘を鵜呑みにして、家でおとなしく留守番しているらしい。


信じて疑わないその健気さは、犬に例えるなら「忠犬ハチ公」といったところか。


「ありがと」という私の笑顔に、シッポをブンブン振り回している。



――よし、よし、それでこそ私のハチだ 


満足感に浸りながら、身支度を整えて駅へと向かった。


マンションのある桜上水駅は京王線沿いにあり、新宿駅まで10分くらいで行ける。
こじんまりとしていながら、急行も止まる便利な駅だ。


新宿駅に着くと、南口を出て徒歩5分。
そこに私の勤める「WAONコーポレーション」がある。


ギフトの総合販売会社で、ネットが普及してから急速に成長した会社だ。
今では20階建ての自社ビルを持ち、5階から10階までを自社で使用している。
他フロアは他社に貸していて、空きはない。


ハチはそこから歩いて数分のところにあるビル管理会社で働いている。
駅に着き、二人揃って改札を出る。 


「じゃ、仕事頑張ってな。
 あ、今夜は気兼ねなく楽しんでこいよ」


そう言い残して、ハチは逆方向へと踵を返した。
今夜の事を疑う素振りは微塵もない。


何度か振り返って手を振るハチ。
その笑顔を見ながら、人波に消えるまで見送った。


理想の恋愛とは、理想の恋人とはまさにこの事だ。
猜疑心もなければ、しつこく干渉することもない。


あるのは忠誠心のみだ。


順風満帆!
二人の未来には一点の曇りもない。


頼れる男に付いていくほうが幸せだという意見もあるだろう。
でも、私は過去の苦い経験から家畜系女子の道を捨てた。



私は飼育系女子でありたい。


そのほうが幸せになれるに決まっている。
間違ってなんかいない…


…決して



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