ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「村上…君か? ……見違えたな。」  


笑顔だったシェパードも息を呑んで目のやり場に困っている。
やっぱり、早めに修正したほうがよさそうだ。


が、次の瞬間、シェパードの口から予想外の言葉が飛び出した。  



「すごくいいじゃないか!
こんな美人と一緒に仕事できるなんて、
やる気が湧いてきたよ。」  



――すごくいい?……美人??

――社交辞令だよね…これ  


謙遜して聞き流そうとした沙希だったが、泳いでいたシェパードの目がみるみる輝いていく。
まんざらでも無さそうだが、こちらとて鵜呑みにするほど正直者ではない。


愛想笑いする沙希の肩をポンと叩くと、シェパードはいつも通り颯爽とデスクへと向かった。


シェパードの背中を唖然としながら見ていると、コリーが小声で囁いた。  



「村上さんって、 部長のタイプだと思いますよ。」  



「私が?……タイプ?」  



「前に部長と付き合ってた人
知ってるんですけどね。
今の村上さんの雰囲気に
すごく似てましたからね。」  



「へぇ~、そうなんだ。」  



意外にも本音だったかもしれない。
昂る気持ちを抑えて、平静を装う。


何が功を奏するのかわからないものだ。
邪魔かなと思って切った髪と変えたメイクがシェパードの気を引くことになるとは…ね。


ひょっとしたら、シェパードのほうから誘ってきたりして…
なんてのは考え過ぎか。


まぁ、何はともあれ、ブルの指令はやり易くなったかもしれない。
微かな期待を込めて、相手の動向を見ながら待つことにした。


 
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