ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



助かったと思うよりは、驚くだけの沙希に  


「早く車から離れろ」  


シェパードは語気を荒げて叫び、同時にドーベルマンの手を更に捻じりあげた。
沙希はハッと我に返り、咄嗟に車から逃げ出して二人から距離を置く。  


「うちの社員に何してくれてんだ?
これ、鷲尾の指示か?」  


凄むシェパードにドーベルマンは睨み返すも何も答えない。  


「鷲尾はこの事知ってるんだろうな?」  


質問を変えたシェパードに、ドーベルマンは「チッ」と舌打ちを返す。
離れた沙希を確認すると、シェパードはドーベルマンを突き飛ばすように解放した。


手首を押さえながら、鋭い視線で睨むとドーベルマンは車に乗り込んで走り去って行った。  


車が見えなくなったところで、シェパードが振り返る。
沙希に歩み寄りながら、「大丈夫か?」と声を掛けるも、恐怖で震える沙希を見て、そっと肩に手を掛けた。


「もう、大丈夫だ」  


シェパードの優しい口調に安堵感が湧き上がってくる。
と同時に、今日の報告をするべきか助けてくれたお礼を言うべきかが頭の中で交錯すると、沙希の意に反して代わりに涙が溢れ出てきた。

頬を伝う涙を見て、シェパードは沙希をそっと抱き寄せた。
シェパードの厚い胸板に体を預けると、包み込む抱擁感にまた更に涙が溢れてきた。
しばらくその状態で泣いていた沙希だったが、  


「あ、あり、がとう…ございます」  

と絞り出すようにお礼を言うと、  


「落ち着いたか?
とりあえず、ここは離れよう」  


コクンと頷く沙希の肩に手を添えて、促すようにシェパードは歩き出した。



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