そのアトリエは溺愛の檻
二リットルのペットボトルが入った袋を手に持ち、マンションへと歩く。当然その途中には重秋のアトリエのあるマンションがあるので、眺めていると、エントランスに入っていく人影に見覚えがあった。


「え?」

どうして重秋が? 明日13時って言ってたから今日は東京にいると思ってたのに。

振り向いた彼は一瞬驚いた顔を見せ、微笑んだ。


「言いつけ守らないのは悪い男に捕まるため?」

センスのいいジャケットを着ていて、髪を固めていて、いつもと雰囲気が違っているからドキドキする。

気品もあって、どこかのセレブみたいだ。


「それは、そこのコンビニで水を買うためで。え、どうしてここに?」

撮影のためにここに来たにしては早すぎる。

「さっき電話したときはもう駅に着いてて。俺も今タクシーでここに着いたところ」

「そうだったんですね」

元々こっちに来る予定があったのかな。それにしては明日の予定は比較的フリーっぽい口調だったけど。だから撮影にためにこっちに来るのかなって思っていたのに。


「東京で招待されたパーティーに出てたんだけど、月曜からのスケジュール変更が決まって焦ってさ。明日百音が午前しか空いてなかったらって思ったら、確認する前に新幹線に飛び乗ってた。百音があいてて良かったよ」


まるで私の心を読んだかのような発言とその内容に何も言えなくなってしまった。
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