明るい不倫
夫が、いた。

いるはずのない夫が

こんなところにいるわけがない夫が

いた。

目の前で、10才は年が離れているであろう若い女の腰を抱き、私にはもう何年もしていないような熱いキスをしていた。

目の前で。

「恵子さん?」

その男の声に私はハッと我に返った。

いるはずのない夫の姿に、自分のことをすっかり忘れていたけど、そうだった・・・と。

あ、と思った。

私がこれからしようとしているようなことを、この2人は今まさにしてきたのだろう。

目の前の夫が可愛い女の子から唇を離して顔を上げた。

もう逃げるにはできない距離にあったから、私は否応なく夫と向かい合った。

夫は目を丸くして

私の傍に立ち、私の腰を抱き寄せる男と私のことを呆然と見つめていた。
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