35階から落ちてきた恋
高速エレベーターで下降するといつも酔いが全身に回る気持ちがする。
気分が悪くなるわけじゃないけれど、ふわふわした頭で帰路に就くのが嫌だったから、『Moderato』の帰りはいつもこのエントランスから出たところで大きく両手を広げて深呼吸をする。
肺に新鮮な空気を入れてリフレッシュ気分を味わってから歩き出すのだ。

隣に進藤さんがいるのに、今夜もいつもの習慣でやってしまった。

ん~っ。

両手を広げたところで目が合った。

はっと気が付いて「ごめんなさい。恥ずかしいですよね、こんなところで思いっきり深呼吸なんかしてて」と慌てて謝る。

「いや、いいよ」
進藤さんの目は優しい。
さっきまでの不機嫌な表情は消えている。

「それに、果菜のそれを見るのは初めてじゃないから」
真っ直ぐに私を見つめた。

え?
「初めてじゃないって・・・」

「偶然だけど、2回見たことがあるんだ」

「2回もですか?」
まさか。それはちょっと恥ずかしい。

「あそこからね。偶然目に入った」

進藤さんが指差したのはたった今私たちが降りてきたエレベーター。
ここのエレベーターはシースルー構造になっていて外の景色が見える。



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