35階から落ちてきた恋
何度か週刊誌の記者に声をかけられたこともあった。
でも、笑顔で「ごめんなさい。何にもお話することはありません」とやり過ごすことができていた。

でも、それとこれは違う。
進藤さんはわかってくれるだろうか。

黙って私の背中をさすってくれている進藤さんの顔を見上げる。

「果菜、出てしまったものは仕方ない。そこは諦めろ」

え?今なんて言ったの?

ぞわっと心が波立つのを感じる。
仕方ない?

「今、仕方ないって言った?」

「ああ、実際アップされてしまったものは仕方ないだろう。それにあれに果菜の顔はほとんど映ってないから問題ないだろ?」

モンダイナイ?

問題ないっていうの?

心にたったさざ波が大きな波に変わっていく。
もちろん顔が映ってないのは不幸中の幸いだけど。
あれは大事なひと時なのに。

「これで誰がアップしたのか犯人を見つける捜査に役立つかもしれないし、ある程度お前の情報を出しといたほうがマスコミに詮索されずに済むかもしれない。すべてが悪いことじゃなかったかもしれないぞ」

私は凍り付いた。

「な、なにをいってるの?」

「だから、全てマイナスに考えることはないってことだ」

「マイナスよ。どこにも私にとってプラスはないわ」

私の反抗的な言い方に進藤さんは少し驚いたようだ。

「果菜、落ち着けって。どうした、果菜らしくない。怒ってるのか?」

私はぐっと唇をかみしめる。



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