35階から落ちてきた恋

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そんなわけでここに通い始めて約半年。

木下先生が言わんとしてたことがわりとすぐに分かった。

一人でバーに行く緊張感ってすごい。
はじめての時なんてエレベーターの中で吐き気を催した。

ファッション、メイク、ヘアスタイルだけじゃなくて、他のお客さんの視線を感じると姿勢やマナーにも気を遣いはじめる。
そのうち、こんなところに一人で来られるようになるなんて、もしかして私も大人の女性の仲間入りしたかしら?なんて思い始め自然と背筋をのばして入店するようになったりして。
現在、木下先生の思惑通りに意識改革されている私。



「果菜さん、いらっしゃい」

「アツシさん、こんばんは」

今日もアツシさんは笑顔で私を迎えてくれた。
窓際の一人掛けに向かい、カウンターを離れて私の席まで出て来てくれたアツシさんにビールベースのレッドアイを頼んだ。

「今日は少し混んでるのね」

「ああ、でも騒ぐお客様はいないから安心して。それより、何かあった?こんなクリニックの忙しい時期に果菜さんが飲みに来るなんて」

「あ、やっぱりわかる?友達がいきなり結婚するって言ったの。彼がいるだなんてひと言も聞いてない。
ひどいわよ。それに、前に片思いしてたあのドクターがね、おかしい位浮かれてるから何かあったなとは思っていたんだけど、結婚してから半年たってやっと休暇が取れたらしくて新婚旅行に行くんだって。もう浮かれまくっててうっとうしいったらないよ。こっちは毎日残業、残業でくたくた。彼氏もいないっていうのにね」
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