BLUE SKY~裸足の女神~
最終章 八年後~Wedding Ceremony ~
八年後……セブ島のホテル。

「蒼! 早く! 遅刻しちゃうよ」

八年前と全く同じように、僕は星羅に叩き起こされた。

「教会に行く前にドレスとタキシードに着替えないといけないんだからね!」

「ああ……昨日、寝れなくて」

「全くもう。まぁ、蒼らしいっちゃあ、蒼らしいけど」

僕達は海を見ながら朝食を摂り、身支度をしてホテルの前にとまるリムジンに乗った。

「でも、蒼……いつまでも、変わらないね。画家としてどんなに成功しても、やっぱり私のことをずっと見ててくれててさ」

リムジンの中で、星羅は細めた瞳を僕に向けた。

「当たり前だよ。ずっと、ずっと、星羅は僕の女神……『裸足の女神』なんだから」

「言うと思った」

彼女の細めた瞳は悪戯っぽさを醸し出した。

「だって、蒼の私を見る目、八年前……私を『裸足の女神』として描いてくれた日から、何も変わらないもの」

そんな彼女に、僕の顔も自然と綻ぶ。

「それよりさ」

僕は少し引っ掛かっていたことを聞いた。

「本当に、ここでの挙式でいいの? だってここには、友達、誰も来れないし。星羅、友達多いじゃん」

「ううん」

星羅は目を瞑って首を横に振った。

「ここがいいの。だって、蒼が初めて気持ちを打ち明けてくれた場所、このネックレスをくれた場所、そして……初めて私を描いてくれた場所なんだから」

すっと目を開けた澄んだ瞳に、僕もそっと微笑んだ。

「だから、この子にも……」

星羅はそっとお腹をさする。

「生まれてきて大きくなったら、話したいの。私達、青い空の下、澄んだ海に囲まれたこの場所で、八年前と変わらない永遠の愛を誓ったんだって」

「そうだな。それと、この世界で一番大きい生命……ジンベエザメに出会えたことも」

腹をさすりながら目を細める彼女に、僕もそっと言った。
すると、彼女の瞳は悪戯な色を見せた。

「そう。あなたが、飛行機の中で韓国料理をゲロゲロ吐いたこともね」

「あ、そんなこと、話さなくていいだろ」

大人気なくムキになる僕に、彼女はキャッキャと笑った。



教会の壁には、あの日見た海……クマノミにスズメダイにイソギンチャクに珊瑚、そしてジンベエザメの絵が飾られている。
それは勿論、あの日……僕が八年前に見た全てを描いた絵だった。

『蒼。あなたは、健やかなる時も、病める時も、常に星羅を愛し、敬い、慰め、助け、守り、命の続く限り、固く節操を守ることを誓いますか?』

あの絵……『BLUE SKY~裸足の女神~』を背後にして、神父が僕に優しく問いかける。

『はい、誓います』

『星羅。あなたは、健やかなる時も、病める時も、常に蒼を愛し、敬い、慰め、助け、守り、命の続く限り、固く節操を守ることを誓いますか?』

『はい、誓います』

僕は『裸足の女神』のヴェールをそっと上げる。

僕達はこの場所……八年前に愛を誓ったこの場所で、二回目となる『永遠の愛』を誓ったのだった。





BLUE SKY~裸足の女神~ (了)
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