琥珀の奇蹟-MEN-

プラットホームは雪の影響か、だいぶ混雑し始めていて、改札口にたどり着くまで何度か人にぶつかりそうになりながら進む。

改札口を抜けると、店外販売している洋菓子店が、残り少ないクリスマスケーキを安売りしていた。

もう間もなく、今年のクリスマスも終わる時間になる。
こればかりが残っても仕方がないのだろう。

時刻は、午後10時10分。

駅構外へ出ると、相変わらず雪は降り続き、駅前のロータリーも、タクシーやバス待ちで、長蛇の列ができ始めていた。

ここからなら、独り暮らしのアパートまでは、バスで3駅。
歩いて行けない距離じゃない。

…と、どうせこの寒さの中歩くなら、その前に一杯温かい珈琲でも味わおうと、馴染みの喫茶店が、頭に浮かんだ。

この時間…まだ、やっているだろうか?

自然と足が、店に向かう。

駅前から続く石畳の歩道から一本細い路地を曲がると、すぐに目印のアンティークランプが仄かに灯っているのが見えた。

今日柚希と待ち合わせしていた場所でもある、喫茶”琥珀堂”。

古いこげ茶色のランプが灯っているということは、まだやっているはずだ。

少し積もった肩の雪を払い、喫茶店にしては重厚すぎる扉を開け、中に入る。
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