琥珀の奇蹟-MEN-

直面する永遠(とわ)の別れを前に、なんて幸せなそうなのだろう。

いや、そもそも老女にとって、これは永遠の”別れ”ではないのかもしれない。

こんな風に、愛する妻に見送られながら最期を迎えられる老女の夫に、羨ましくも、自分もそうありたいと切望してしまう。

『ところで、あなたの方の時間は大丈夫なのかしら?もし近いのであれば、そちらを先に…』
『いえ、本当に病院で降ろしていただければ、平気です…それよりも、ご主人こそあなたを待っていらっしゃるでしょうから、優先してあげてください』
『あら、良いのよ、昔は私がいつも待たされたんだもの…今日ぐらいは、やきもきすれば良いんだわ、それに…』

老女は、ゆっくり瞬きをしてから、こちらを振り返る。

『あの人は私を待たずに逝くことは、絶対ないはずだから…』

その微笑んだ顔は、決して愁いを帯びたものではなく、強い意志を思わせる確信めいた表情をしていた。

不意に、老女の膝に抱えている大きなカバンの取っ手部分にぶら下がる、小さな球体が目に入る。

それは、つい先ほどマスターにもらった琥珀石に似ていて、薄暗い車内の中であるのに、奇妙な輝きを放っていた。

『そう…ですね』

確かなものなど何もないはずなのに、自分までもがなぜか、それは間違いないように感じて、いつの間にか、強くうなずいていた。
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