それでも、幸運の女神は微笑む
––––優しい夢だ。

優しくて幸せな夢。


何も知らない幼いわたくしが、甘えたで泣き虫なわたくしが、わたくしのままでいられた場所。





もうどこにもない、幸せ。










夢はいつも泡沫。



日の光に照らされた、優しい優しい場所が、どこからともなく赤で塗り潰される。





「どうしてわかってくれないの」

「どうしたのアイナ」

「このままじゃ、この国は駄目になりますわ」

「気にしないでアイナ」

「国政にもっと興味をもってください。
民のことを考えてくださいな」

「心配しないでアイナ」

「愛してなんて言いませんわ。ただ、目を覚ましてくださいまし」

「大丈夫よアイナ」



「ですからっ・・・・・・––––––ぇ?」






「母上、なぜだ、母上、母上っ・・・」

「アイナ、俺はここにいる」

「父上、なぜ母上を」

「アイナ、心配するな」

「もう我慢はできない。このままでは、崩壊する」

「アイナ、笑って」

「失敗するわけにはいかないが、失敗する気は無い」

「アイナ、大丈夫だ」



「・・・・・く、っそ。裏切った、か」










赤が、全てを塗りつぶす。


薔薇のように鮮やかに。

目が痛くて、見ていられないほど。


鮮やかに。







「・・・は、」



そうしていつも夢は覚める。

ただの悪夢ではない、過去の記憶がわたくしの決意を固くする。




“アイナ”

呼ばれるたびに背筋が伸びる。

彼女と彼だけが呼んでいた名前。
仲間が呼ぶ名前。


“リアーナ”

そう呼んでわたくしを甘やかすのはエリィだけ。


だからわたくしも彼を“リオット”と呼ぶ。




哀しいほどに優しいエリオット。

わたくしを・・・“アイリアーナ”を愛してしまった可哀想なエリオット。





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