駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

近い…


ドキドキと高鳴る音が、彼にも聞こえるんじゃないかと更に緊張で体が強張る。


「いい匂いだ。鼻につかない、そして甘ったるくない媚びない爽やかな匂いで好きだな。どこのだ?」


「…Bライトのミステリアスです」


「ミステリアスか…里依紗らしい」


蕩けるような低い声が、耳元をくすぐる。
自分の声の良さをわかっていて、わざと耳元で喋るのだら、ほんと、タチが悪い。


いつもの朝のエレベーターの中で彼に名前で呼ばれると、勘違いしそうになる…


それは、彼の事が好きだからだ。


「部長、そろそろ離れてくれませんか?」


「里依紗は、つれないな」


大げさに両手を広げ悲しそう呟き離れて行くが、表情はいつものように変わらず、何を考えているのかわからない。


「誰のせいよ」


思わず、こちらも呟いてしまう。


「んっ?」


聞こえている癖に、聞こえないふりもいつもの事。


「いえ、なんでもありません」


「里依紗は、彼氏には優しくするの?」


「…まぁ」


「その割には、男のサイクル早いよね。どうして?」


「仕事に必要ですか?」


「いや、俺の個人的な疑問」


「そうですか。ではお話するような事はありません」
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