駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

里依紗は、俺の言いたい事をわかってくれない。


恋人同士がずっと一緒にいて離れがたくて、それでも離れなければいけない時、するものといったらキスだろう…と俺は思っている。


「…違うの?」


「宿泊代を彼女に出させる男だと思ってるのか⁈」


言いたい事が伝わらない苛立ちに口調が冷たくなる俺の前で、必死に首を左右に振る彼女が可愛らしい。


「…傷ついた。今日は仕事する気分じゃなくなった」


ふーと大きくため息を吐き、目を逸らして顔をしかめて見せた。


「ごめんなさい。違うの…そんなつもりじゃなかったの。ねぇ…部長の優也が来ないと仕事が回らないよ。どうしたらいいの?」


「自分で考えたら?」


俺は、焦った里依紗の慌てる様子に、ほくそ笑んでいたりする。


「えっと…優也を置いて先に出る私が、何か忘れてるんだよね…何だろ?物じゃないし…」


あっ…と、ひらめた表情の里依紗が可愛く笑った。


「また、後でね…行って…きます」


俺の顔色を見ながらどんどん、自信なさげになる里依紗が、また、可愛らしい。


本気で言った訳じゃないが、もう、このまま会社にも行かず閉じ込めて甘やかしたい衝動に駆られる。
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