駆け引きは危険で甘く、そしてせつなくて

「…い、いらっしゃい、ませ」


「ペアのボックス席で」


常連のお客さんのように、勝手知ったる口ぶり。


「あっ、はい。…空いてます。どうぞ…」


誠は、なんとか冷静になりながら、席に案内しよう歩き出す。


「里依紗、おいで…」


優也の甘さを含んだ蕩ける声に、嘘だろうって感じで誠は二度見して振り返っていた。


まるで、誠の心の声が聞こえているようだ。


ペアのボックス席はL字になっていて、中庭を一望できるように設置され、隣の席は壁で見えないようになっている。


ほんのりとライトアップされた中庭は、とてもムードがあり恋人達には絶好の夜景だ。


こんな席に座って、隣に好きな人がいたらもう勘違いして当たり前だと思う。


両思い同士のカップル手前の2人なら、絶好の場所だろう。


私達は、いったいどんな間柄なんだろうか?


もう、訳がわからない。


食事中、当たり障りのない会話を楽しみながら、時折、甘く微笑んでキスをする優也に舞い上がり、そして自分を戒める。


勘違いしちゃいけない。


彼がわからない。


恋人同士でもないのに、まるで恋人のような態度に戸惑い、美味しいはずの料理も、最後の方は味を感じる余裕がなかった。
< 80 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop