月が綺麗ですね
青天の霹靂とはこのことを言うのだろう。


私はドキドキと異常なほどに脈打つ心臓に両手をあてて、すりガラスの扉の前に立っていた。

この扉の向こうには私にとって新しい世界が待っている。

そう言えば聞こえがいいが、今の私は不安と不安と不安と.....不安しかない。

決定事項だから逆らうわけにはいかないし、いくら辞令に不満があったとしても、まさか会社を辞める度胸もない。


アパレルメーカーに勤務する私が今まで所属していた営業三課は、展示会や販促イベントを主催するのがメインの部署だった。

総勢10名でみな仲もよく、私自身販促業務が性に合っていたし、仕事もそれなりにこなし、後輩の指導もして来た。仕事に自信がついてきた矢先の人事異動だ。


ふと、優しくて面倒見のいい課長の顔が頭に浮かぶ。


「...課長ぉ、どうしてですかぁ?」

独り立ち尽くしながら思わず泣き言が漏れる。
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