優しいスパイス
ドクン、と鼓動が音を立てる。



脳が勝手に“あの日”の光景を映し出した。



真夜中の父の研究部屋。

何かを探っていた見知らぬ女性と一緒にいた彼。

その彼女と一緒に、何かを持ち去っていった彼。




脳がグラグラと揺れる。




いや、違うよね。

あれは、何か理由があったんだよね。



だって。彼は絶対優しい人だって、ついさっき、そう確信したばかりで──。




必死に言い訳しているのに、まるでそれを否定するかのように、全身から体温が引いていく。





彼の視線がいつになく冷たい。





「……今日のは口止め料」





彼の声が耳奥で反響する。



せり上がってくる脈の音と混ざって、気持ち悪い。





なに、それ。



もう何も聞きたくないよ。











「もう、俺を見つけても近寄るな」










低い声が鼓膜を突き刺した瞬間。

──喉の奥が、ひゅ、と音を立てた。
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