優しいスパイス
「いや、俺が許可しない」



不意に背後から聞き慣れたハスキーボイス。



「俺も誕生日まだだし飲まねーから雪瀬も道連れな」



振り返ると、いつの間にかそこに立っていた綾月がニッと悪戯っぽく笑った。



「あはは、綾月そんな真面目だったっけ?」


「俺一応法学部だしな!」


「あー、それもそっか」



妙に納得していると、「おーい、そこ早く乗ってー」と春木先輩の声が飛んできた。



慌てて乗降口に向かう。



「香恋、飲み過ぎんなよ? んで、雪瀬ちゃんは今日はダメだからな。綾月くん監視頼む」



会話が聞こえていたのか、春木先輩がそう言いながら香恋の頭を撫でた。



「あ、春木先輩。俺、部員でもないのに誘ってくれてありがとうございます」



綾月が小さく頭を下げると、春木先輩が香恋の頭から手を離した。



「うちそういうの緩いからさ。結構みんな彼氏彼女連れてきてるし、綾月くんなら大歓迎だよ」



そう言った直後、「春木ー、ビールまだー?」とバスの窓から顔を覗かせた先輩に、春木先輩は呆れた顔を向けた。



「今から配るー」



そう答えて、行こう、とバスに乗り込む春木先輩のあとから乗り込んだ。
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