優しいスパイス
「じゃあ、まずはあそこ行こう」



綾月が、ニッと笑ってどこかを指差した。



覚悟を決めて、ゆっくりとその先に視線を移す。



確か。中三の記憶では、綾月は絶叫系が大好きだった。



そんなことを思いながら、捉えた視線の先。






「っ……」



思わず、声にならない声を漏らした。





「あれ、は、」


「フリーフォール!」






キャーと甲高い悲鳴と共に、垂直に落ちていく人々。



見ているだけでも、ヒューっと背筋に悪寒が走って、掌と足の裏に冷や汗が滲む。







よりにもよって、絶叫系のなかでも一番苦手な乗り物。



中三の時も、これだけはなんとか理由をつけて、必死に避けていた。







「行こう!」



綾月は、この上ない笑顔で。



もう、逃れられない。




「…………う、ん」



すくみそうになる足を無理やり踏ん張って、頷いた。
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