拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 私が寝ていたこの広い部屋以外にも、まだ何部屋かあるみたいだ。
 
 ところで昨夜。戸川さんは、きちんと眠れたのだろうか?
 
 「あの......。私、こんなに広いお部屋占領しちゃって.......。戸川さん昨日は、きちんと眠れましたか?」
 
 「大丈夫ですよ。この部屋は、もともとゲストルームなので俺の部屋は別に」
 
 ”ゲストルーム”!?
 
 この部屋には扉が二つある。どうやら、ここは相当広いマンションのようだ。
 
 とても、新入社員の給料では住めないはず ーー。
 
 驚いている私に、戸川さんは言った。
 
 「親父の......知り合いが。管理しているマンションだから、安く借りれたんですよ」
 
 その言い方は、どこかぎこちなかった。
 
 こんなマンションを所有している知り合いがいるなんて、戸川さんの家はお金持ちなんだなぁ。
 
 ......優斗君とは全然似ていない。
 
 優斗君は、お母さんと二人きりの母子家庭で、生活保護を受けていると聞いていた。

 戸川さんと優斗君は全くの別人だ。

 似ても似つかない二人なのに。たとえ夢の中とは言え、戸川さんと優斗君を錯覚するなんて......。
 
 だけど、名前だけは全く同じ。
 
 それに、出身地も。 

 あの夢を見てから私は変だ。
 
 戸川さんに対するこの気持ちは......何?

 そういえば、一つ腑に落ちないことがある。

 昨夜、夢の中で優斗君の指先を握った時。とても夢とは思えないリアルな質感だった。

 あれは夢ではなく。ベッドの端で私を見つめていた彼は、戸川さん自身だったんじゃ......?

 だけど、私が優斗君だと思って話しかけた時、彼は否定しなかった。

 「そんなにアクアリウムが気に入りましたか?」
 
 私が色々と考えを巡らせながら、アクアリウムをぼーっと眺めていたら戸川さんが笑顔で聞いてきた。

 「あっ、はい。とても、キレイですね」
 
 「気に入ってもらえて良かった。牧村さん、今、気分はどうですか?」
 
 「おかげさまで、良くなりました。昨日の体調不良は一時的なものみたいです」

  私がそう言うと、戸川さんは思いもよらない提案をしてきた。
 
 「元気になって安心しました。ずっと部屋に籠もってるままじゃ、気分が滅入りません?アクアリウムもいいですけど、本物の海を見に行きませんか?......もちろん、他に予定がなければ」
 
 これって。もしかして、デートの誘い??
 
 私が口籠っていると戸川さんは再び私を誘ってきた。

 「俺と......、海までドライブ。行きませんか?」
 
 「......はい」

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