拘束時間   〜 追憶の絆 〜
緊急手術からおよそ6時間後。『手術中』のランプが消えてストレッチャーに乗せられて出てきた彼は、まるで自分が事故に遭ったことなど知る由もない穏やかな顔をしていた。

私はそんな彼の顔を見つめて、幾ばくかは安堵した。

きっと彼は、事故にあった瞬間に意識が飛んで痛みも恐怖も感じなかったはず。

それくらい激しい衝撃だったのだ......。

大腿骨骨折、肋骨骨折、内臓にまで達する切り傷で、そこからの大量出血......。


生きててくれるだけでいい。

息をしてくれるだけでいい。

ーー 私が傍に居るから。


身体を拭くことだって、髪を梳かすことだって、爪を切ることだって、食事の世話だって、なんだってする......。

私、怜斗にずっと会いたかったんだよ。

神様が、またあなたに会わせてくれた。私、そう思ってるんだ。

でも、運命は非情だね......。

あなたを、こんなにするなんて。

まるで私達は永遠に結ばれないって言われてるみたい......。


勤務が終わり、面会謝絶の病室の前で私は彼に心で語りかけていた。

そういうことが一ヶ月ほど続いた梅雨のある日に。面会謝絶だった彼の病室は開け放たれて、ようやく私達は話すことができた。

「失礼します。......戸川さん、点滴を代えにきました」

「沙綾。他人行儀な話し方は、やめて......」

「......うん」

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