真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
今すぐ彼へLINEを返したいのに、あと二駅で降りなければならない。

考えなしに思いつきでなら返信できる時間はある。けど、広務さんが真摯に考えて送ってくれたメッセージに適当な返事を返したくはない。

電車を降りるまでの時間、会社までの徒歩、会社に着いてから就業するまでの時間......、広務さん宛ての渾身のラブメッセージを考えよう。

そう決めた5分後に会社の最寄り駅に到着した。

5分程度の短い時間じゃ渾身のラブメッセージなんて当然浮かんで来るはずはない。

とりあえず私はスマホ片手に電車を降りた。

すると、プラットホームに足を着いた途端にムワッとした熱風に体を取り囲まれた。

ーー暑い。

あっつい!暑すぎる!!

さっきよりも気温上がってない!?

あまりの暑さに「一体何度なんだ!?」と思った私は”今日の天気”で検索をかけた。

そして、サイトに表示された気温は32度。

そりゃ暑いわけだ。体が溶けそう。......まぁ、既にハートは溶けてるけど。

そうだ。恋する乙女のハートは灼熱だ。

たかだか32度くらいで何だ。

真夏の太陽よりも熱い愛のメッセージを広務さんに送るんだ。

私は気合を入れ直して気温32度の茹だるような暑さの中、彼へ送るメッセージを考えながら会社までの道のりを歩いた。

そして辿り着いたビジネス街の、ど真ん中に威風堂々と君臨する我が社のビル。

”我が社のビル”とか言うと、まるで自分が社長みたいな言い方だけど、間違いなく私はただの雇われ。しがないOL。

私の代わりなんていくらでもいる。

いつ辞めたってかまわない。
 
ーー寿退社上等。


だから、広務さん。早く私をあなたのお嫁さんにしてね......。

広務さんには、”君の代わりなんて何処にもいない”って言われたいーー。


こうして。ビジネス街の中心に無言で佇む鉄骨のビルを見上げながら、ひた甘い妄想を繰り広げるも、容赦なく時間は過ぎていく。

だから仕方なく。仕事モードに切り替えて、私は今日も出陣する。

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