真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
まだ日が沈みきっていないオフィス街の夕暮れ時の、わずかな往来の中、この時間帯に社外に出ていることなど予想できない人物が想定外に目の前に現れた。

「仕事は!?」

もっと他に言うべきことがあるだろう。でも、まさかジークが会社帰りの私を待っているなんて。

「サボった」

「え!」

「冗談だよ。立場上ある程度、融通が利くんだ。あんな中途半端な状態で優花と別れて仕事なんか手につくわけないだろう。君が部屋を出て行った後、暫く落胆してたよ。それから反省した。オレは自分の気持ちばかりを押し付けて君を追い詰めるような言い方ばかりをして......。まず第一に君の身体を気遣うべきなのに。もう君一人の身体じゃないのに。本当に、ごめん」

ジークは今まで私に見せたことがない消沈した様子で肩を落として先週の顛末を謝った。いつもは、しっかりとセットされているブロンドヘヤーが少しだけ崩れていて、彼の真剣さが伝わってきた。

今一度、きちんと話し合わなければならない。そう思った私達は、近くの喫茶店で話し合いの場を設けることにした。

「あの後.......オレの部屋を出て行った後、どこに行ってたの?」

本題に触れる前に、ひとまずジークはあの夜、自分の部屋を出て行った私の終着地を訝しげな眼差しで尋ねてきた。

「あの日は結局、自分の部屋には戻らずにホテルに泊まったの」

「.......独りで?」

その一言には”成瀬は一緒じゃなかったのか?”という言葉が潜んでいるように感じられた。

「独りだよ」

独りで安いビジネスホテルに泊まって、ヤケ酒を呷っていた。妊娠していなかったから飲酒しても問題はない。それから、広務さんとは別れないことになった。つまり、ジークあなたと結婚することはできない。それが私の話すべきこと.......。

わかってるけど、こんなに真摯なジークを見ていると、どうしても言葉に詰まってしまう。

この時間帯は客が少ないオフィス街の喫茶店。静かな店内に流れる洋楽のBGMが耳によく響く。一つの曲が終わり次の曲に移る時、突如小気味のいい音が混ざり私は沈黙を破らざる得なくなった。

「LINE、.......成瀬から?」

「う......うん」

「オレからもアイツに話す必要がある。君ばかりに責任を負わせられない。オレは、お腹の子の父親として誠実に向き合う」

「ジーク、あのね......私、......妊娠してなかったの」

< 213 / 315 >

この作品をシェア

pagetop