真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
タクシーの中でジークと私は、ほとんど会話をする事はなかった。

その代わりにジークは運転手さんと他愛ない話をして、私は時々相槌を打つ程度だった。その相槌を打つのだって、私には容易なことではなかった。

話半分にジークと運転手さんとの会話を聞きながら、頭の中では、さっき広務さんから送られてきたLINEが気になって仕方がなかった。

そのことを、ジークはきっと気づいてる。だからこそ胸の内を悟られないように、いかにもフラットに運転手さんと世間話をしてる。

「結構道混んでたはずなのに、話してると、あっという間に着きますね」

本当だ。考え事をしていると時間て、あっという間に過ぎていく。

広務さんからの今日一通目のLINE。たぶん、無事にニューヨークに着いた報告とか、そういう内容だと思うけど.......ジークから広務さんの衝撃的な過去を聞かされた今、何気ないメッセージ一つにも身構えてしまう。

どうにも隠しきれない緊張が表に出てしまっていたようで、私が少し顔を強張らせているとジークはすぐさま気づき、そして拾い上げた。

「どうしたの優花?そんな顔して、何か嫌な事でも思い出した?」

「今日、仕事忙しかったから少し疲れてるの。食欲も無いし。早く部屋に帰って休みたいな」

逃げ口上を言いながら私がタクシーを降りた後も、ジークは、まるで影のように、横にピタリと並んで歩き、とうとう部屋の前までついてきた。

「それじゃあ、ジーク。おやすみなさい」

早々に場を切り上げたかった私は、ジークが何か言う前にと間髪入れずに締めくくった。

ーーそれでも、この男(ひと)は、爪痕を残す事を決して忘れなかった。

「おやすみ優花。ゆっくり休んで」

そう言いながら片手で私を抱きしめて、額にキスを落としてジークは帰って行った。

そして、錯乱する私に更なる波乱の予感。それは反射的に開いたLINEに記された広務さんからのメッセージ。

「連絡遅くなって、ごめん。無事ニューヨークに着いたよ。ようやく優花と一緖に暮らせると思ったのに、今日から又しばらく独りの日々だ......。でも、3ヶ月後には必ず迎えに行くから。その時は、一生に一度のプレゼントを持って行くよ」

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