蚤の心臓
「君は、大学では何専攻なの」

そう訊ねられ、私は「語学」と短く答えた。
「何語?」
「言わない」

そんな短いやり取りをしてから2人分の笑い声が部屋に小さく響いて、彼は「そろそろ行かなきゃ」とベッドから降りてきた。

出勤、と私に一言で説明をしながら身支度を始める彼の姿が、その朝はやけに格好良く見えた。
自分のテリトリーに入って来た男って感じがして、私が今までに知る男とはとても似ても似つかないような神聖な存在のように思えた。
それが「彼氏」というものであって、「ひいき目」というものであるということには結構後になってから気が付いた。

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