終わりで始まる進化論~第一部~
隔離
ナツキは暗闇の中に居た。木製の椅子に座らされて、拘束具で手足を固定されている。




目の前には一人の女が立っていた。顔は余り認識できないが、口元は微かに笑っている。





「それじゃあ、いくつか質問に答えて貰おうかしら?ナツキ=ノースブルグ」


「質問、あなたは今どこに居ると思う?」


「……」



暗闇の中なのだ。分かるわけもない。ナツキは反抗的な視線を女に向けたが、女はその細い指を頬に押し付けてくる。女は催促の言葉を口にした。





「ほら、早く質問に答えて。……でないと、起こしちゃうから」










「ん……ううん……」
頬に押し付けられる指の感触に時折眉を寄せながら、うなされているナツキを見下ろしては、柔らかな指は頬に押し付けてくる。



あまりの寝苦しさに、薄目を開けると頬にかかる黒髪が見えて目の前の大きな瞳と目があった。




「うわあっ!……痛っ!」




突然の至近距離に驚いて飛び起きた反動によって、互いの額をぶつける結果になってしまった。



「うううー」




同じくナツキの傍で額を押さえてしゃがみこんでいる人物に見覚えがあった。




黒髪ポニーテールの少女だ。あの時教室のクラスメイトや、自分自身に襲いかかった殺人鬼である。





「ノア君、寝ている人で遊んじゃ駄目ですよ。睡眠は極力ストレスを感じさせてはならない人間に必要な休息なのですから」






いつから居たのだろう?扉の傍に立っている長身の男が、指で×印を作りながら制止させる。




ノアというのは剣士の少女の事だろう、不貞腐れて頬を膨らませたが大人しく部屋を出ていってしまう。







「すみません。あの子は好奇心が旺盛な上に馬鹿なんです」




「あの、それフォローになってないですよね」





酷い言いようだ。思わず被害者であるこっちがフォローしたくなる。丁寧な口調だが何も敬っているようには見えない目の前の男は形だけのような会釈を返す。





天然なのか少し猫っ毛混じりの銀髪を掻きながら、淡々とした口調で自己紹介を始めた。




「初めまして。私は羽柴秀吉(はしばひでよし)と言います」



「……あの、それ完全に偽名ですよね?」



「まさか。正真正銘の本名ですよ」



わざとらしく目を丸くした男は肩を竦めた。




完全なる偽名だ。天然銀髪の目の前の男が、和名である事すらも考えにくいのに、あろうことか歴史上の偉人を堂々と名乗るとは。





しかし、男は本来の名前を教える気がないのか、悪びれずに自分の名前と言い張ってからは当然のように話を進める。



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