終わりで始まる進化論~第一部~

鱗粉を浴びた上に直接摂取してしまったのだ。もし毒が能力としてあるタイプならば、ヴェルベット・アイの状況は最悪だろう。


斑点の広がりから見て早く治療へ向かった方がいい事は、ナツキにも理解できた。



「羽柴さん、聞こえますか?春日井さんを、そっちで保護してください。ヴェルベットアイが毒を摂取したかもしれません」



「ちょ、ちょっと!」



アリスの視線はナツキを咎めるように睨みつけていたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。



通信機に手を当てて羽柴の返信を待っていると、静かな声量の落ち着いた声が返って来る。



「分かりました。アリス君は今すぐ撤退してください。それから、ナツキ君。君はこれからは私の指示で動いて頂きます。ノア君やシノミヤ君がやってくる間の時間を君が稼ぐんです。出来ますね?」




羽柴の口調は落ち着いていながらも絶対に否定をさせない強制力を持っていた。そもそも、否定してしまってはアリスやナツキも死を直結させてしまうかもしれない事態なのだ。



だとしたら、動ける人間がやるしかない。




「やります。羽柴さん、指示をお願いします」


「待ってよ!あたしは……!」



納得していなそうなアリスが何かを言いかけたものの、即座にきり返したのは羽柴だった。



「落ち着いてくださいアリス君。君やヴェルベットアイは我々の大事な戦力です。ここで君や君の大事な相棒を失う訳にはいきません。それに、ここは私の管轄です。采配くらい、私に任せて頂きたいです」



「……羽柴。あんたのそういう所、凄いムカつく」


「残念です。私はアリス君が大好きですけどね」


素直に従うしかないと踏んだ精一杯のアリスの捨て台詞を、何食わぬ口調で軽く受け流す羽柴の軽口には、彼女も呆れと諦めの溜息を大きくこぼしたのだった。



両手にヴェルベットアイを乗せたまま、アリスはナツキの方へと振り返る。



「余計な事は考えなくて良いから……あんたは……!?」



何か忠告するように口を開いていたアリスの足首に細い管が巻き付いてきた。
管はその場所から食い込みアリスの肉を抉るように締め付け始める。




「くっ、あああっ!」



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