God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
〝閑話休題〟

新年早々、ドカ雪。
人も車も街路樹も、雪が積もってしまえばただの白いオブジェと化す。
車に轢かれそうなスリルを味わいながら、歩きやすい車道を行くか。
凍った雪に足元を浚われ、スッ転んで恥を晒すリスクを負って歩道を行くか。
数々の選択が我が身に降りかかった今日、冬休み最後と言う貴重な1日、黒川なんかと肩を並べて歩くに至る。
この冬休み。
彼女の居ない俺はクリスマスを孤独に見送り、さっそく塾の冬季講習に励み、カップラーメンで年を越し、冬休み中は親にコキ使われ、わずかなお年玉は弟の恭士に「貸してちょ」という暴言で取り上げられ(何故だ!?)、やっと遊びに出かけようかという頃になって、ノリにも工藤にも裏切られ……というか、「「彼女と出掛ける」」とかで断られた。
結果、唯一ヒマだという黒川と会う事になったのだが。
この選択、新年早々、後悔している。
母親がいつの間にか買ったらしい黒いジャンパーに身を包み、強引に寄越された母親用の赤いマフラーを拒否して(当たり前だろ)、下は普通にGパンで待ち合わせに出向いた。
俺の姿を見て、黒川は、さぶっ!と、これみよがしに腕を組んで縮こまる。
「今年も独りか。寂しい男の匂いがするゼ」
「って、おまえもだろ」
まー、黒川が、ついそう言ってしまう気持ちも分かる。
辺りを見渡せば、ショッピングモールに向かう人の群れは前も後も、暖かいコートやファーに守られた老若男女、ツーショットだらけ。
「氷張ってるぅ。寒いぃぃ~」
「オレんち、去年の雪がまだ冷凍庫にあんだけど。食えっかな?」
「いいね。あたし、そろそろカレーが食べたぁい」
後ろから聞こえてくる意味のない、そして全く噛み合っていない会話。
そして、前を行く(バ)カップル・オスの吐くタバコの白い呼気が怪しく、甘ったるく、顔に降り掛かる。黒川と2人、まるでスパーリング中のボクサーのように、煙を避けながら歩いた。
「クリスマスに奮発した」という黒川の出で立ちは、濃紺のセーター、色合い綺麗めのボトム、いつもの邪悪な黒川を全く匂わせない。ずばり大人路線で決めている。
「着たのはクリスマス1回こっきり。プレゼントとかその後とか金掛かってしょーがねーよ」
こう言う時、思うのだ。
金掛かるとか面倒くさいとか言いながらも、その女子のために自腹で私服を用意するとはつまり、それだけ掛けても惜しくないと思える相手が居ると言う事で。
「てことは、とうとう出来たか。彼女。今更だけど、あけおめ」
「気が早ぇーよ。クリスマス用に、1日だけのな」
相変わらず、ジャンクな女子狩りを続けているようだ。
早くも今年予定の合コンの話になり、「ガッコが始まってくんないと、こっちの都合も勢いつかねーし」と、鼻息が荒い。
こっちはつい選挙の事ばかりが気になって、「重森が」「永田のバカが」と、いつものようにやってしまったら、「休みの時ぐらいガッコの事なんか忘れろよ」と小突かれた。その勢い、危うく転びそうになる。
助けてくれるような優しい心根は、元来、黒川は持ち合わせていない。
気にも留めない振りで、「今日は何も考えないでさ、映画でも見ようぜ。うぅ寒っ」という事になり、何故か黒川は、そこに永田も呼ぼうと言う。
「来るかよ。あいつはあいつで、彼女と仲良くで」
「や、それがさ。実は」
黒川は、ニヤリと笑った。
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