God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
2月13日~チョコレート大試食大会
甘い香りで、目が覚めた。
目覚めると、そこは化学教室。これから4時間目の授業が始まる所である。
化学の先生はもう黒板前に来ていて、いつもの白い白衣が、いつものように汚れてシミだらけ。フラスコやら、試験管やら、エタノールランプやらを嬉しそうに並べて準備しながら、チャイムが鳴るのを今か今かと待ち受けている。
甘い匂いの出所は、その先生ではない。俺から2つ前の席、そこで繰り広げられている女子5人の、チョコレート大試食大会であった。
そこのチョコに(女子にも)吸い寄せられるように、男子もチラホラ、ドヤドヤ、軍団でやってくる。
「食ってい?」
「だめぇ!」
「オレの?これ、オレにくれんの?」
「あんたは今年もママと妹から貰いなよ」
「いーよ、いーよ。今年は白石さんから貰うし」
「白石?後輩?」
「乃木坂だろ?いい加減、目を覚ませってばよ」
そう言えば……うちは毎年、母親が「安かったから」と言ってハート形のピーナッツ・チョコレートを大量に買ってくる。母親自身でほとんどを食い散らしてくれるのだが、もしかしてそれは俺と弟に対する母親なりの気遣いなのか。怖くて訊けない。(多分、親父も)
再び腕を組み直して、うたた寝していたら、今度は女子がまるで誰かに襲われたかのように、キャーッ!と金切り声を上げる。それに驚いてこっちはまた飛び起きる。
「カスタードが、どろんどろ~ん」
「これ、お酒が入ってる。大人ぁ~」
「あ、種が入ってんゾ、これ!」
「アーモンドだよっ。吐くな!」
キャッ。ククク。ウキ。
「サルか……」
おまえら。
俺は安眠を諦め、頭を振って眠気を吹き飛ばすと、何度目になるだろう、演説草稿を開いた。
何度も書いて、何度も見直す。そのうち、どこかで聞いた事のある文句をパクってるんじゃないかと不安になってくる。
そこに、「暇でさ」と、ノリがやってきた。劇的な(?)和解以来、休憩の度、まるで彼女のように足しげく俺の元にやって来る。
平穏な日常が戻り、選挙戦もそろそろ後半を迎える今日この頃、もう何の気掛りも無く、俺は選挙の色々、ノリは彼女とのバレンタインの色々、それぞれの色々にかまけていた。
「洋士は誰かに貰う予定とか、無いの?」
「無ぇよ」
聞くな。
「最近、桂木さんと仲良いみたいだけど。まさか、もう付き合ってるなんて事は無いよね?」
「無ぇよ」
2人で歩けば、あちこちから言われる。それは想定内であり、右川の時と同様、そんな事で話題に上ってくれるなら、俺としては許容範囲だ。
だが、桂木の側からしたら、桐生の事もある訳で。
なので周りには、もうハッキリと、「桂木どころか、誰1人、俺には居ない」と、自虐上等!で触れ回っている。
「僕はさ、明日は一応、マックで待ち合わせしてるんだけど」
むっちゃん彼女と、バレンタイン・デート。
こう言う時、思うのだ。単にそれが言いたくて、来たのかよ。
「その後、どこに行こうかって、考えてるんだけどさ」
夜にかけての、ショッピングで、お互いのプレゼントを購入。
夜にかけての、ファミレスでお食事。
夜にかけての……その事で、ノリは頭が一杯である。これは、アドバイスが欲しいという相談では無い。ずばり惚気だ。こう言う時、思うのだ。右川といい、浅枝といい、ノリといい、俺は他人の惚気を聞かされる運命にあるのか。
知らないようだから教えてやろう。
最強の寒波が降りたと言われる、連休明けの今日。
2月13日。
世間は寒さで凍えてますけど、何か?
そして明日は14日。
俺にとって、その日は、全校生徒の前で行われる公開演説の日だ。
チャイムを合図に、ノリも、チョコレート女子も(男子も)、散って行った。
4時間目の化学を100パーセント内職でヤリ過ごし、昼休みは3組で応援団と円陣を組んでメシをカッ込む。そこに藤谷を始めとする女子群がやってきて、「食べる?」と、チョコを配り始めた。親指ほどの丸い形。口の中で齧ると、中から更に柔らかい練りチョコが飛び出す。
「どよ?」と、感想を求められて、「うん。普通に美味いけど」
すると、女子が、「ほらァ!」と、笑い出した。
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