God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「あれ?でも2人、付き合ってんでしょ?」
「だったら何ヤラれたっていい訳じゃん?付き合ってんだから」
「振られたんだよ。沢村が。それでヤケになって」
「違げーよ。振ったんだよっ!右川が」
「いやそれ、どっちも言ってること同じだし」
「てゆうか、またヨリが戻ったんじゃなかった?」
「別れたんだよ。だから右川を放り出して、沢村が立候補したんだって」
「右川は、消されるとか殺されるとかブチ上げて。逆恨みで沢村を妨害か」
「それにムカついて、沢村はとうとうヤッちゃった、と」
俺と右川の歴史が、前後の脈絡も無く、曖昧に繰り返されている。
これまで周囲の噂をいい加減に聞き流し、自らもそれを利用してきた事を、これほど後悔した事はない。
「待って!沢村は右川の敵じゃないよ!」
と、桂木がまたしても飛び出した。
「右川、ニコニコ笑ってたもん。立候補してくれって言われて、頼りにされて、本当は凄く嬉しかったって」
桂木のそれは、嘘にしては必死に聞こえる。
マジか?右川がそんな事を言ってんのか。俺の居ない所で何を言っているか分からないヤツとは言え……そんな、小っ恥ずかしい事。
一瞬、体温が緩やかに上昇した。
だが、
「待て。それは確実か?都合よく事実をすり替えてんじゃねーか?」
黒川が滑り込む。
「確かに、立候補しろって沢村も言った。けど、右川が嬉しかったのは永田会長が期待してくれた事だよーん♪ってオチじゃねーのかよ。右川を頼りにした奴らは他にも要る。阿木とかノリとか後輩連中とか。みんな沢村なんかより友好的だろ。そりゃニコニコ笑うワ」
「え?あ、や、そ、そんな。それは……」
確信が持てなくなったらしい。桂木が、見る見るうちに縮こまる。
俺だって、今の今まで自分の事だと丸ごと思い込んで好い気になりかけたから……大バカだ。
「協力してやるって言うのに、肝心の右川がトボケてるから。それでヤケになってバカな事したんじゃねーのかよ」と、黒川に睨まれた。
その眼は嬉しそうに歪んでいる。
マズイ事に、それが正解だ。
黒川は鋭い。こういう所が侮れない。
「おまえか?」
「おまえか!」
永田と重森は、お互いがお互いを責めて疑い合った。
バスケ部VS吹奏楽部。またここから始まるのか。
俺はその中には加わらず、独り、半分死んだように黙る事しかできない。
3組は飽和状態。全部が好奇心のやじうま。俺達は檻の中。
そこに右川が……平然と、堂々とやってくる。
「あうっ!まさに学校の中心、3組のみなさん、はろぉ~♪」
「てめー責任とれッ!」
永田は、右川に詰め寄った。
俺も、周りに集まった人ごみを掻き分けて、右川に詰め寄る。
「おまえ……」
と、口火を切ってはみたものの、何をどう言えばいいのか、分からない。
謝れば許してもらえるというレベルなのか。その場合、いやどっちにしても俺はもう、生徒会は無理なんじゃないか。
何も言えない俺の横から、重森が飛び出した。
「俺は、自分の事はよく分かってるよ。俺じゃない。つまり沢村か永田だ」
ここで黙るわけにはいかないと思った。
「俺だって分かってる……つまり、永田か重森か」
右川を目の当たりにして、いまいち迫力に欠けた。
「さあ、誰かなぁ♪」
右川は、のらりくらりとかわして、ケケケ♪と笑う。
「吐けー吐けー」「ゲロゲロー」「言わないと殺すゾ」
女子に体を揺さぶられ、フザけて首を絞められながら、ヤメテヤメテ♪怖いよう♪怖いよう♪と、右川はノリノリで揺れる。
謝れば許してもらえる、そんな状態にはないと分かった。
……楽しんでやがる。
「誰だよ!知ってるヤツ、居ねーのかよ。荒川は?磯田は?何か言え」
「赤野は?石田は?牛久保は?誰も聞いてねーのかよ」
1人1人陣営のメンバーの名前を五十音順に挙げて、問いただされた。
俺は、矛先が永田陣営に向いたのをこれ幸いと、気配を殺して、押し黙る。
「どっちなんだよッ!チビ太郎!」
「だーかーらー、ここで軽々しく言う訳にいかないじゃん♪」
「ね?沢村せんせ!」と、気配を殺していた俺に向かって、右川はワザとらしく陽気に投げかけた。ジリジリと脅迫する気か。冬だというのに嫌な汗が。
そこに先生がやってきて、「クラスに戻りなさい」と横槍が入り、誰が犯人なのかハッキリしないグレーゾーンのまま、3人は放りだされた。
そして放課後。
一日中、メール&ライン質問攻撃に、授業中も寝られずの完徹で、呼び出された生徒会室。
永田会長と松下さん、阿木と浅枝、生徒会全員が雁首そろえて待ち受けている。
< 51 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop