God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
右川の委任状
3月の予餞会。そして卒業式。
慌ただしい行事を目前に、本日の放課後、執行部では毎年恒例、ささやかな送別会となった。
先輩を、口々に労っていると、
「沢村も、ごくろうさん」
そう改まって言われても、「すみません。ご期待に添えなくて」
頭を下げるしかない。
阿木と浅枝が、飲み物、食べ物を並べていた所に、「これ差し入れ」とケーキを片手に、吉森先生が入って来る。
その瞬間、女子を中心に部屋の温度が最低3度は上がった。
生徒会室に、全員が勢ぞろい。ささやかに乾杯。
2人の進路の状況は、吉森先生と阿木は元より、俺も良く知っていたので、唯一知らない浅枝が、聞いて良いのか悪いのかという微妙な笑顔で、終始、気を遣っている。
話題はすぐに選挙の事になり、これも浅枝は気を遣っていたようだ。
そう言えば、選挙の結果に関して、誰も俺に直接何か言ってくる事は無かった。腫れ物に触るような、とはよく言ったものだが、話題に上らないというのも不自然である。
「あの、選挙ですけど。最後に報告書はちゃんとやって……俺も卒業します」
その瞬間、3年を中心に部屋の温度が最低10度は下がった……のは一瞬で、永田さんも松下さんも、「今年は面白い選挙だったな」「遊んでくれたな」と愉快そうに笑う。
アナタもですか。
2人の顔を眺めて少なからず俺は凹んだ。面白けりゃいい、はどこまでも。
松下さんは、右川に期待を寄せる願望そのままに、
「兄貴が作った独裁の歴史を、その妹が塗り替えるという事か。生まれ変わるかな」
生まれ変わるどころか、来期の生徒会は化ける。俺は秘かに思った。
〝ポスターもビラも挨拶もない候補者〟
当初、ほとんどの生徒が右川の素性を知らなかった。コビトさん、チビ、くそチビ、ツブ……そんな、メッタ討ちの愛称だけが独り歩きで。
それが、どうだ。
俺達は、あれだけビラを撒き、自分から出向いて動いて、そうやって触れ回ってクタクタだというのに、右川ときたら自分は動きもせず、ただ1つ大ボラをカマし(いや、正確には大ボラではなく事実なのだが)、気がつけば周りが、その答えを求めて、わざわざ顔を見にやってくると言う始末。
たった独りきり、たった3日間の選挙活動だった。能率良すぎて、妬ましい。
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