君の思いに届くまで
13章
13章


朝、駅前に隣接するパン屋でお昼を調達し動物園に向かった。

「少し窓を開けていいですか?」

朝の風に当たりたくて琉の承諾を得る。

少しだけ窓を開けると、ふわっとさわやかな初夏の香りが車内に入ってきた。

「いい風だ」

琉が口元を緩めながら言う。

「いい季節ですもんね」

琉の端正な横顔を見つめながら答えた。

「ヨウが好きな季節はいつ?」

「いつだと思いますか?」

「ヨウは質問が好きだなぁ。この質問も俺を試している?」

そう言うと、琉は苦笑した。

簡単に答えない自分は意地悪なのかもしれない。

とりわけ今の琉に対してはそういう気持ちになっていた。

「ヨウの好きな季節か・・・俺は夏、だと思うな」

夏。

琉と出会った夏。

私の好きな夏をあっさり言い当ててくれたことに素直に感動していた。

琉のどこかに私の記憶が刻まれてるんだって。

そう思えないと、自分がどうにかなりそうで。

「夏・・・当たりです」

私は少しだけ笑った。

「よかった」

琉はこちらにちらっと視線を向けて嬉しそうに笑う。

「どうして夏が好きだと思ったんですか?」

その笑顔に尋ねた。

「ん-、ヨウのイメージかな。太陽の下やキラキラ光る海のそばに君がいつもいるような気がしたんだ」

「素敵なイメージですね。素直に嬉しいです」

「どうしてかな?」

「え?」

運転しながら、琉は片方の手でこめかみを押さえていた。

「ヨウのそんな姿が鮮明に頭に浮かんだんだ。まるで思い出みたいに」

胸が苦しくなる。

体が強ばっていく。

この緊張感は久しぶりだった。

琉の記憶の断片が私をしっかり覚えている。

でも、私のことを完全に思い出した時、琉と私は幸せになれるんだろうか。

時々ふとそんなことを思って不安になる。
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