君の思いに届くまで
古い街並みはおしゃれで高級感がある。

ホームスティさせてもらったクルーズ夫妻は、以前立花教授も留学でお世話になった方でとても親切で温かく迎えてくれた。

家の近くには大きな公園もあったし、日本人好みのカフェもたくさんある。

毎日が夢のような刺激的な毎日。飽きることがなかった。

自分が語学を勉強しにきたことをすっかり忘れてしまうくらいに。

そんなある日、クルーズ邸でダディのバースデイパーティが開かれることになった。

マミーが「今日は日本人の友人も招待してるのよ。その日本人の彼は優秀で大学で日本文学を教えてるわ。それにとてもハンサムガイ」なんてウキウキした口調で私に言った。

この場所にはほとんど観光客も来ないし、日本人に会うのは1週間ぶり。

ハンサムかどうかはともかく、正直日本語に飢え始めていた私にはありがたかった。

クルーズ夫妻を慕う友人達が、次々とお祝いに駆けつけ、広いお庭はあっという間に埋め尽くされた。

もちろんほとんどがイギリス人ばかり。

そんな長身のイギリス人の中に引けを取らないくらい背の高くて美しい後ろ姿の彼がマミィの言ってた日本人だろうか。

遠目でなんとなくその彼らしき人物を観察していた。

彼に挨拶していたマミィは私と目があった瞬間にっこり笑うと、彼の袖を掴んでこちらに引っ張ってきた。

おいおい、いきなり連れてきちゃうわけ?

ぼーっと緊張感もなくコーヒーを飲みながら椅子にもたれていた私は、背もたれから上体を起こした。

「ヨウ、彼が今朝話してたミネギシリュウよ」

近くに寄ると、一層背の高いのが顕著になる。

峰岸琉という彼の顔を見上げた。

彼のくっきりとした奥二重の薄い茶色の瞳はとても印象的だった。

サラサラの前髪が風になびいている。

髪の色も、染めているのか地毛なのか、瞳と同じ薄い茶色をしていた。

どこのパーツをとっても、整っていて、マミィの言うように間違いなくハンサムガイだった。

座ったまま思わずその美形に見とれていた私を琉がくすっと笑った。

慌てて椅子から立ち上がる。



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