セルロイド・ラヴァ‘S
薄っすらと雲を引いた秋晴れの空の下を手を繋がれて歩く。愁一さんのお店から10分かからないぐらいの距離にある私のアパートまで。

Vネックの薄手のセーターに細身の綿パンツのカジュアルな恰好も、やっぱり見慣れないけれど。長身で体格のバランスもいい。想像以上に何を着ててもカッコいいひとなんだと、今さら気付いた。

髪も軽く整えただけなのに、出来の違いってこういう事かしらね。内心で苦笑い。今まで付き合った相手には容姿を重視してきたつもりが無いから取り扱い方に困ってる、・・・そんな感じだ。

「愁一さん、ここです」

真っ直ぐ歩いて来て、水色の接骨院がある角を左へすぐの2階建て6世帯アパート。外観はレンガタイル張りで築10年ほどだから、まあ新しい方だと思う。ほぼ南向きでベランダ側が駐車スペースになっている。お陰で陽当たりも良い。

屋根付きの駐輪場に子供用の三輪車や子供乗せ自転車が置かれているのを見て、愁一さんは「ファミリー向けなんだね」と少し意外そうだった。一人だし、単身者向けのアパートでも足りるのは分かっていたけれど、家族が入居している方が不審者が少ないという私の持論で選んだ物件だ。
 
「綺麗にしてる。睦月ならそうだろうって思ったけど」

部屋の中に入り、軽く見渡してから彼が感心したように言う。

「引っ越して来る時にだいぶ処分しましたから。散らかるのが嫌いで出来るだけ物は増やさないようにしてるんです」

101号室のこの部屋と真上だけ、2DKをリノベーションした1LDKタイプで。10.5帖ほどのリビングダイニングと6帖の洋室、バストイレ別で洗面室あり。理想的な間取りも気に入ってる。

場所を取るからソファは置いていない。リビングの角に置いたテレビ台の前には円形のカーペットを敷いて、コタツ兼用のリビングテーブルと座椅子。食べるのも寛ぐのも全部ここ。壁際にチェストとラックを置き、洋室にはシングルサイズのベッドと姿見のスタンドミラー、衣類はすべてウォークインクローゼットへ。

「たまには僕がここに来てもいい?」

「いいですよ」

ベッドがちょっと狭そうだけど。微笑んで返すとキスが落ちて。

「ああそうだ。僕のところからでも出勤できるように着替えは大目にね。置ける場所もあるし、いつでも泊まっていけるでしょう?」

歯ブラシとコップは後で買えばいいね、と愁一さんはやんわり笑った。 
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