セルロイド・ラヴァ‘S
3-1
「アパートまで送るよ」

昨日に続き二人で昼に近い時間に起き、フレンチトーストとサラダで軽く食事を済ませて帰り支度をしていた私に、愁一さんがやんわり笑んだ。

秋めいた涼やかな風がそよぐ中、片手に私の荷物、片手を私と繋ぐ彼と、やっぱり昨日と同じように歩きながら。

「そう言えば愁一さん、お店を二日も休みにしちゃって良かった?」

Closedのプレートが掛かったままの『珈琲 保科』。常連さんはがっかりしたに違いない。

「今までも僕の都合で開けたり開けなかったりだからね。気にしなくていいよ」

クスリとされたけれど。・・・もしかしてお店は副業なのかと素朴な疑問が湧いてしまう。



アパートに着いて、私は少しだけでも上がってってもらおうと思ってたのに。「帰りたくなくなるから」と愁一さんはドアを閉めた玄関の内側で私を抱き竦めた。
 
腕を緩めると、今度は遠慮なしに息が苦しくなるほどのキスを貪り。いつまで経っても彼の腕の中。甘い切なさにどんどん離れがたくなってしまう。繋がりを解いた唇で愁一さんは、私の頭の天辺にも何度も口付けを落とした。

「・・・これからは仕事帰りに毎日寄って?一緒にご飯食べよう」

「でもそれじゃ愁一さんに悪いから・・・」

「一人分作るのも二人分作るのも一緒でしょう。・・・僕がそうしたいって言うのはぜんぶ僕の我が儘だから。あきらめて聴いてくれないかな」

寄せていた彼の胸から顔を上げると目が合う。淡い笑みが返る。

「睦月といたいだけだよ・・・僕は」

「それは私も・・・そうだから・・・」

少し恥ずかしくなって言葉が詰まり気味に。

「じゃあ睦月。・・・また明日」

最後のキスが落ちる。

「・・・うん。また明日」

玄関ドアに向き直りドアハンドルに手を掛けた愁一さんが顔半分、振り返った。口許に仄かな笑みを浮かべて。

「・・・羽鳥君に宜しくね」




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