セルロイド・ラヴァ‘S
愁一さんと出逢ってから一ヵ月近く。月を替わって、終わり頃には彼の誕生日も迎える。11月29日で38歳になる彼の。

目下の悩みはプレゼントは何がいいのかってこと。サラリーマンならネクタイとか香水とか、普段から使ってそうなものを考え付く。愁一さんの場合、当てはまらないから正直途方に暮れてしまって。

いきなり最初から欲しいものを訊ねるのはどうかと思う。面倒なのかと気持ちを疑われそうで本当に不本意。だけれど。外しまくった物をプレゼントするより、当人の意向を反映するほうがマシなんじゃないかって、・・・考えに考えた私の苦悩も理解してもらえないかな。なんてそんなことを思っていた。




「愁一さん」

いつものように帰りがけに彼の家に寄り、ご飯を食べ終わったあとで一緒にお風呂に入りながら。さり気なく。

「いま欲しいものって何かある・・・?」

少々訊き方がわざとらしくなったような気もする。

アパートサイズじゃない広めのバスタブの中で、脚を伸ばした愁一さんの身体を背もたれに抱っこされてる体勢のまま。

「欲しいもの?」

顔が見えてないから何とも言えない。でも頭の上でした声は怪訝そうでもない。

「どうしたの急に」

背中から回った手が私の胸を軽く悪戯しながら、優しく訊き返される。

「えぇと、・・・誕生日に欲しいもの無いかと思って」

「ああ・・・なるほど」

少し考え込むようにしばらくして彼が言った。

「あのね睦月」

「うん」

私は普通に答えを期待した。

「僕は睦月がいてくれたら他は何も要らないよ。・・・だから」

 穏やかな口調で続く。

「これからも何も要らないんだ。・・・誕生日とかクリスマスとか、そういうのって義務感みたいになるでしょう。プレゼントしたかったらいつでもすれば良いと思ってるし、感謝や気持ちを相手に伝えるなら、特別な日に限定する意味は無いんじゃないかな。・・・睦月はどう思う?」

このひとって。

肩から、すとんと重たい石が転がり落ちたような。目の前がざあっと開けたような胸を突かれた衝撃。

そうだ。いつしか惰性になって、形だけで円満なのだと思い込んで。結局、知らずに浮気されて離婚した。大事なのは日々のちょっとした積み重ねだったって。今さら気付く。
 
「・・・・・・そうね」

溜息で吐き出す。

「愁一さんの言うとおりだわ。・・・ごめんなさい、考えが浅くて」

自己嫌悪。自分がちょっと情けなくて恥ずかしかった。 
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