セルロイド・ラヴァ‘S
そう遅くもならず家に帰り着き。一緒にお風呂に入って、いつもよりスキンシップが控え目だなと感じたけど。きっとその後にベッドで上乗せされるんだろうと思ってた。明日、羽鳥さんと会うと分かってるのだから殊更だと。

愁一さんは先にベッドで、ヘッドボードを背もたれに上半身だけ起こし、タブレットに見入りながら私を待っていた。肌のお手入れを済ませて2階の寝室へ上がり、ふわふわの羽毛布団をめくって愁一さんの隣りにするりと入り込む。そうするとすぐに抱き締められ、彼のほど良い体温に包み込まれるのだった。

「明日は何時に迎えに来るの?」

いつもだったら疾うにパジャマ用のスェットを脱がされかけてそうだけれど、訊ねた愁一さんは私を胸元に抱き込み、髪に顔を埋めるようにしてそのままでいる。

10時ぐらい、と答えると「じゃあ夜更かししない方がいいね」と笑んだ気配がした。それって。私は思わず身じろいで顔を上げた。

拍子抜けしたというより。戸惑いとか、どうして、っていう心許なさが隠せなかった。これまで女性周期以外の理由で抱かない日なんて一度も無い。まるで 羽鳥さんに会う罰だと突き放されたような気持ちになって、私は愁一さんと目を合わせた。彼の深い眼差しには何の揺らぎもなく、すがるように揺れているのは私。

「そんな表情(かお)されると僕が意地悪してるみたいでしょう」

やんわりと笑みが浮かんだけど目の奥は笑っていない。

「でも、・・・だって」

愁一さんのスェットを胸の辺りできゅっと握りしめ、視線を俯かせて小さく躰を竦める。
 
「・・・どうして、してくれないの・・・?」

ルールがある訳じゃない。けれど。ずっとそうしてきたものが突然、途切れたら不安になる。ましてこのタイミングでなんて。

快楽に溺れたいんじゃない。躰を重ねて相手を確かめて。そこにちゃんと愛が在るのかを肌で感じたい。本質が一番曝け出される瞬間だと私は思う。男が女を征服する時って。 

「・・・・・・今日はやめておきなさい」 

静かに抑えた声。前にも同じ言葉を聴いた。ああ。羽鳥さんに初めてプライベートで食事に誘われた夜の。おずおずとまた顔を上げて愁一さんを見た。
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