Something Blue ~ 声を失くした亡国の女神 ~
純白の綿雪に土が入り混じり、穢れていく痛ましい光景に哀悼の眼差しを注いで、目線を下に俯いていた私の顔を上向かせたのは、一人の少女の声だった。

「お兄さん、随分遠くから来たんだねぇ。長旅で、お疲れでしょう? あたしの宿で、ちょっと休んで行きなよ......?」

娼婦のセリフだーー。

娼婦と思われる少女は真冬だというのに、肩口と胸元をさらけ出したドレスで、狙いを定めた男に特有のセリフで、しきりに客引きを繰り返している。

男の腕に自分の腕を許可なく絡ませると、今度は、まだ発育途中の小ぶりな胸を押し当てて、猫撫で声で誘惑する。

やがて男は腕に感じる少女の胸の柔らかさと、つぶらな瞳で上目遣いに見上げる彼女の愛くるしさに陥落したようで、僅かに頬を緩ませながら自らの懐の奥に手を忍ばせると、金子の入った袋をおもむろに取り出した。

そして、少女へ金貨を数枚握らせると、客の男は彼女の剥き出しの肩に自分のマントを脱いでかけてやり、それから、大きな手のひらで彼女の薄くて華奢な肩を守るように抱いて、二人は細い路地へ身を寄せ合いながら消えていった。

あの路地の向こうに少女の常宿があって、彼女はそこで連日連夜、名前も知らない男達に若くて繊細な身体を惜しげもなく抱かせているのだろう。

ーーそれは、哀れな行為。だけど、こんなにも雪が降りしきる寒い日は、晒け出した冷え切った身体を”お兄さん”と呼んだ年上の男に抱いてもらい、温めてもらうのも悪くない......。

今、私が見た娼婦の彼女は私よりも若く、おそらく10代の半ば程。

そんな、孤独な、うら若い少女にとっては、たとえ客の男の温もりでさえ、時には心までも温める束の間の止まり木になることもあるだろう。

私は娼婦の彼女が今夜、男の腕の中で幸福な夢を見ることを切に祈った。

幼い娼婦を暗がりの路地の果てまで見つめていると、突然、身体に凄まじい衝撃が走った。

底冷えのする寒さの中、もはやドレスとは到底、呼べない”ぼろ切れ”では、身体を庇う事も出来ずに、寒さで強ばった筋肉が殴打された痛みは、口では言い表せない程だった。

悲痛な表情で身を縮めた私へ、行商の女は尚も横暴な振る舞いで言った。

「何ボケッとしてるんだい! もうすぐ、王子様の行列が、お通りになるんだよっ! 早く道を開けて、土下座するんだよ!」

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