桜吹雪の中で
練習は小道具なしで始まった。
朗読だけでは分からなかったが
言葉は感情ひとつで感じ方が大きく違う。
小野くんと中村先輩、二人が監督で練習が進んでいった。
「もっと、かなしく!」
「ここで上を向いて!」
「ここは戸惑うシーンなので、目を少し泳がせてみてください。」
「今のところ歯を食いしばってもいいかもしれません。」
二人のアドバイスを活かそうと、役者さんたちは必死だった。
100近くあるシーンのワンシーンだけを
何度も何度も繰り返していた。
そのシーンのメインじゃない人も
自分のことのように真剣に見ていた。
「ここのシーンでなにか思った事ありますか?
」
小野くんにそう聞かれて
言葉が詰まってしまった。
自分がいかに甘い考えでここにいるのか。
私が答えてその答えが
役者さん達にとって重要なものになるのだと
今更気付き、何も言えず下を向いてしまった。
「小川さん、ゆっくりでいい。何でもいい。
感想でもいい、一言でもいい。アドバイスじゃなくても見て思ったことそのままでいいよ。」
中村先輩の優しさから
また、自分の甘さを痛感した。
「私は…」
部員のみんなを見て
台本を読んだ時のことを思い出した。
読んだ時と同じ感情。いや、少し違う。
自分の決意もある。
だから、思ったままに言った
「感動しました。
私、皆さんと一緒に素敵な作品作りたいです!!!」
「菜美さん、
ありがとうございます。」
周りを見ると部員の人が笑顔で私を見ていた。
「よし、次のシーンいくぞ!」
中村先輩の掛け声とともに
役者さんが動き出した。
次はもっとうまく言おう。
そう思った。