私の愛しいポリアンナ



「分からない。俺、小さい子に突っ込みたいとか、そんなこと思わないんです。子どもって、一日一日、一瞬一瞬でものすごく成長するじゃないですか。その、その生命力が好きで、公園で走り回ってる子が好きで、でも、なんでか、子どもが遊ぶ姿を見ると、勃起してるんですよ、俺。なんでだろう、なんで」

炭酸飲料が吹き出すかのように、男の言葉は止まらなかった。溢れ出ているのに止め方が分からないように男は早口でまくしたてた。

「子どもに、性的接触をするなんて、あんなの愛情でもなんでもない、ただの暴力だ。許さない。あんなの、ダメだ。鹿川でも、子どもを売り買いしていて、俺何度か暴れて、殴られて、でも、助けられなかった。生きていたのに。俺、闇の子供たちでのレイプシーンも、本当に、本当に怖くて、血の気が引いて。でも、俺も、俺も、俺もあの大人と変わらないんですよ。興奮してるんだから、子ども見て」

そこまで言い切ってから、男は深いため息をついた。
重く苦しいため息。
秋はアクセルを踏む。
男の話を聞いたら降りてもらうつもりだったが、放っておくことはできなかった。
このままの状態で降ろしたらこの男は自死するような気がしたのだ。
暴論だが「犯罪者予備軍が自殺してもかまわない」という思いも一瞬頭をよぎった。
しかし、この男を切り捨てる踏ん切りがつかなかった。

おそらく、おそらくだがこの男はずっと戦ってきたのだろうと秋は思う。
秋には想像もつかないような絶望感と自己嫌悪と自己否定を繰り返し、疲れ切っている。
それでも愛する子どもたちを自分から守るため、自制心と薬の治療でもって慎ましく暮らして。
そして、たまに溜め込んだ想いを無法地帯の鹿川で吐き出していたのだろう。
鹿川で虐げられていた子どもたちを見てまたフラストレーションを溜めて。

「今日の予定は?」

「へ?」

「俺とみのりは海に行く予定だったんだけど、あなたも連れて行こうと思って」

「え?」

なにがなんだか分からないといった表情だった。
秋はもはや返答など気にせず海岸へ向かう車線に入った。
みのりも能天気に「気分転換になるしいいんじゃないですか?」と言っている。
男はなおも混乱した様子で「え、でも、お二人は?」と続ける。

「俺、いえ、恋人同士のデートを邪魔するほど、野暮じゃないです」

男の言葉に秋は反応したくなかったが、黙っているわけにもいかないので嫌々口を開く。

「恋人じゃない。口説き中だ」

「口説かれ中です」

秋とみのりの言葉によく分からない顔をしていたが、これ以上は説明するつもりもない。
秋は目の前の道を走ることに集中し、みのりは窓の外を眺めている。
男はそれ以上追及することは諦めたのか、座席に背をもたれかけた。



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