初恋のクローバー


「さっきのあなたの走り、見てました!
本当はあんな走りじゃないですよねっ?
本当はもっと、速いんでしょ!?」


「え……っと……」


私の勢いに押されてすっかり涙の引っ込んだ彼は、不思議そうな顔で私を見下ろす。


「あなたには、圧倒的な陸上の才能がある!
それに見合う努力もしてる!
そんな人が、あんな走りが全力なわけない!」


「……!!」


「おい、和哉(カズヤ)!集合かかってるぞ!」


「あ、行かないと……」


「これ!」


部員仲間に呼ばれて振り返る彼の手に、私は急いでカバンから取り出したメモにペンを走らせて渡す。


「私の電話番号!名前も一応書いてあるけど、
興野(オキノ)風結、あなたと同い年」


「え……興野……風結………?」



「私、あなたと話がしたいの!
連絡、待ってるから!」


「…………」


勢いに任せて大胆なことをしたことにこの時
気づかなかった私は、軽くお辞儀をして去っていった彼の後ろ姿をしばらく眺めていたのだった。

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