包み愛~あなたの胸で眠らせて~
「今まで誰にも話せなかった。話したくないことだったけど、誰かに話して分かってもらいたいという気持ちもあった。それで紗世なら……紗世になら話せるんじゃないかと思って、会いたかった。でも、こんな話をしたら紗世に嫌われるんじゃないかとも思って」

「広海くん。私もね、同じようにずっと会いたかったんだよ。ここに広海くんがいたら、こんな時に広海くんならと何度も考えたことがあった。でも、時間が経つにつれて二度と会えないんだと諦めるようになったの。だけど、私たちは会えた。またいつでも会えるし、なんでも話せるんだよ。それと、どんな話を聞いても嫌いになることはないから安心して」


視線を足元に落とした広海くんの手をそっと握った。彼は触れられた手を見てから、私の顔を見る。

仕事をしている時の広海くんの目は力のある目だけど、今ここで私を見る目は違う。

何かにすがるような、捨てられた子犬のように弱々しい目で見ている。


「俺は……母親に……捨てられたんだ」
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