溶かして、固めて、いただきます
手作りチョコのレシピ
子供の頃、友達と作った手作りチョコ。
美味しい板チョコを、なぜわざわざ溶かして固め直す必要があるのか。
ずっと疑問だった。


「無駄な風習だな」

応接セットのテーブルに築かれた小山を、その性格同様冷静な眼で一瞥し、社長は高い鼻を鳴らす。
義理、本命、お返し目的、様々な思惑が渦巻くチョコレートたちだ。

「そんなことはありませんよ。日本の製菓業界、ひいては当社の営業成績をも左右する、重大イベントです」

去年の教訓を活かし、予め用意していた紙袋に、贈り主を確認しつつ振り分ける。

「どこに、チョコの売上と不動産屋の関係性が?」
「告白が成功しカップル成立の先には、同棲もしくは結婚が待っています。つまり……」
「新居探しが始まるという事か」

風が吹いただけでも桶屋が儲かる。
社長は納得したように長い指で鋭角的な顎をひと撫でし、パソコンに向かった。


さてと、仕分け終了。

「これが取引先等から、こっちは社内の義理チョコです。本命と思われる物はこの中に。お返しの品が必要でしたら仰ってください。ご用意します」

三つの袋を、マホガニーのデスクに着く彼の前に並べる。

「それとこれは、私から」

一目で手作りとわかる包みを一番上にのせた。
おざなりに聞いていた社長の表情が固まる。
なぜならそこは『本命』の袋だったから。

贔屓の野球チームが快勝した翌朝は、右側の口角が少しだけ嬉しそうに上がっている。
実はお酒に弱く、乾杯はグラスの縁に文字通り薄い唇をつけるだけ。それでもほんのり耳たぶが朱くなってしまう。
ミスした社員を手厳しく叱った後、偶然を装って様子を窺いに行く。

私がみつけた『あなた』を、砕いて溶かしてひとつに固めて出来あがったのは、ただただ甘い恋心だった。

「付き合っているヤツがいるんじゃなかったのか?」
「それ、いつの話ですか」

ちらりと机上の時計を確認すれば、終業時刻は十分ほど過ぎている。

「定時なので、お先に失礼します」

本日の業務も目的も果たし、退室しようとして呼び止められた。
振り返った私へ何かが放物線を描いて飛んできて、反射的に受け取った手の中に収まる硬い感触。

「自己所有物件だと経済効果は望めないが」

せっかちに渡されたお返しに、とろりと甘い極上の笑みが添えられた。


では遠慮なく、いただきます。


 【おわり】
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