不器用な殉愛
「……あ」
彼の口から、間の抜けた声が上がって、へにゃりと彼の眉が下がる。
「悪い——ええと、俺の手は汚れている、から。お前の顔にも汚れがついた」
「へ、平気。洗うから」
ルディガーがディアヌのことを怒っているわけではなさそうだったのでほっとした。自分の手で、彼が触れたばかりのところを何度も擦る。
「ディアヌ様——、どこにいらっしゃるんですか。もう、昼食は抜きですからね!」
遠くからジゼルの呼ぶ声が聞こえてくる。
ディアヌはルディガーにむかってひそひそとささやいた。
「あのね、ルディガー。行く場所がないの?」
「……まあな。このあたりにはシュールリトン軍がうろうろしている。俺がセヴラン軍の兵士だというのは、すぐにばれるだろうから……でも、ここに迷惑をかけるわけにもいかないだろ。すぐに立ち去る」
「……危ない?」
ぎゅっとルディガーの服を掴む。どういうわけか、この少年を外に出してはいけないと思った。