不器用な殉愛

「お待ちしておりました、陛下」

 二人が扉を開き、ルディガーが先に立って広間に入る。一瞬ためらったディアヌだったけれど、意を決してルディガーに続いた。

 そこには多数の縛り上げられた男達が並んでいた。怪我を負っている者は一応手当されているようだ。

 その中に、父マクシムと異母兄ヴァレリアンの姿を認め、その場に立ち尽くす。二人とも戦いの場で相当激しく戦ったのだろう。あちらこちらに包帯が巻かれ、血が止まっていないのか、その包帯も赤く染まっている個所がある。

「こちらの配置を妙に的確に把握していると思ったのだが……そうか、裏切ったのはお前だったか。姿が見えないと思っていたら、そういうことか。女には女の生き残り方があったな」

 ディアヌの姿を認めたとたん、マクシムは口元をゆがめた。

 もうすぐ五十になろうかという年齢のはずだが、実年齢より十近く若く見えるその容貌も、今や疲れ果てていた。

 疲労の色が濃い顔の中で、ぎらぎらとしているまなざしと、ゆがめられた口元だけが妙に印象的だ。

「勝者に媚を売る。けっこうなことだ。お前の母親もそうだった。自分の夫が戦死したとたん、俺に色目を使って——」

「私は、私のなすべきことをしただけです」

 手のひらを強く握りしめたディアヌは、マクシムの言葉を遮った。たしかに、父の言い分にも一理はあるのかもしれない。

 だが、彼女には守るべきものがあった。今は母と並んで葬られている異父姉。彼女を守るためならば、母はどんなことだってしただろう——たとえ、自分の貞節を差し出したとしても。
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