不器用な殉愛

 ディアヌを一人、残していくのは——なんだか気が進まなかったけれど、その理由は彼にもよくわからなかった。なにせ、ディアヌは彼より十も年下だ。妹のような感情と言うのが一番近いのかもしれなかった。

「……前途有望な若者を、みすみす見殺しにするのも気が重いしね」

 冗談めかした口調で、院長は言う。彼女の声音に、後悔のようなものが滲んでいるのに気づいたけれど、ルディガーはそこをあえて問おうとは思わなかった。

「……そっか。俺って、前途有望なんだ」

「前途有望じゃない若者の方が少数派だよ」

 そう言って笑う院長に、ルディガーの胸があたたかくなる。

「そうそう、あんたが所属していたセヴラン軍だけどね——南の方に撤退していったらしいよ。マクシム陛下は、彼らを徹底的にたたくらしい」

「……そうか」

「もう少し、ここにおいで。気がせくのもわかるけどさ」

 院長は、何か知っているのではないだろうか——不意にそんな思いにとらわれる。

 自分の身元を知られているのだとしたらマズイ。

 だが、院長はそれだけを言い残すと、自分の仕事へと戻っていった。

 ディアヌがどこまで理解しているのかはルディガーにもわからないが、ラマティーヌ修道院はもと女傭兵だった修道女が多数集まっているらしい。おそらく、院長が元傭兵だったというのもあるのだろう。

 そして、今でも、傭兵として働いているのもジゼルの話から理解した。本来なら、修道女が傭兵として外の世界に出ていくなんてありえない。

 だが、クラーラ院長は自分の信じるところがあり、それをかなえるためにそうしているらしかった。
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