夢恋
夢1 恋は無関係
「この前、3組の九条君に告白されちゃった」
「えーっ!あのモテモテのー?」
「うん」
「それで、どうしたの?」
「それはねー……」
「どうせ、OKしたんでしょ?」
「え……はい」
「理科のノート、出してください」
「う、うん」

 私は、ノートを受け取ると、教室を出る。
 3組の九条君こと九条 日向(くじょう ひなた)。
 この人には、私も告白されたことがある。それは、昨日のこと。
 九条君はいろんな人に告白している。あの子も、数ある女の子の中の一人なんだと思う。
 私はもちろん断ったけど。
コンコン。

「失礼します。3年3組の神村(かみむら)です。藤川(ふじかわ)先生いらっしゃいますか?」
「おぉ。神村。こっちだ」

 藤川先生は、理科の先生。
 ちなみに男。結婚してて、子供も二人いる。たしか、子供は二人共、もう一人立ちしている。
 おもしろいから、生徒からも好かれている。

「このプリント、みんなに返しておいてくれ」

 藤川先生が、私にプリントを渡してくる。
 理科係に頼めよ。
 と言いたくなるのをこらえて、ニコッと笑う。

「……わかりました」

 私は理科係じゃない。
 図書委員だ。
 私のクラスの理科係は働いてるのは見たことがない。つまり、理科係の代わりに私が仕事を押し付けられている。
 ちなみに、図書委員では書記をしている。これも、押し付けられた。
 私は、職員室を出て、ため息をつく。
 疲れる。

「神村さん!」
「……何ですか?」

 急に声をかけられて驚きつつ、冷静さを保つ。
 声をかけてきたのは、さっきの九条君に告白された子だ。

「どうしてさっき、告白OKしたってわかったの?」
「……はい?」

 おもわず聞き返してしまう。

「だって、あたし、神村さんと話したことないし……」

 この子、可愛いな。美少女って感じ。
 白い肌に、長い手足、大きな瞳はキラキラ光っている。少し茶髪っぽいけど、多分、地毛だと思う。この子、髪染めるような子じゃないから。

「……そんな事、聞いても意味ないと思うよ。じゃあ、私、プリント返さないといけないから」

 そう言って背を向けると、その子は私の腕を掴んだ。

「何」
「私にも、プリント配るの手伝わせてっ!」

 うざい。
 一言で言うと、うざい。

「プリント、配りたいんですか」
「え……う、うん」

 私は、その子にプリントを全部渡す。

「なら、どうぞ」

 軽く会釈して、教室に戻る。
 そして、席について、机から次の授業の教科書を出す。
 さっきの子が、純粋に私を助けようとしてくれたなら、理科係に注意してくれる方が嬉しかった。
 一緒にプリントを配るのは、面倒くさい。
 一人で配った方が早いし。

「ねぇ、神村さん。美奈(みな)は?」

 机の前に、女子が2、3名立っている。
 美奈って、誰?

「……あなた達が言う美奈ちゃんの事は、知らない」
「嘘よ!だって美奈は、あなたを追いかけていったもの!」

 そう言われて理解する。
 あのプリントの子か。

「その子なら、職員室の前で会いました」
「それで?」
「……プリントを配りたいと言ってたので、プリントを預けました」

 そこまで言った瞬間チャイムがなった。
 私の机に集まっていた人たちは、授業が始まるので自分の席に戻っていった。
 そして、美奈ちゃん?が教室に戻ってきた。
 プリント、ちゃんと配るよね?
 私は、美奈ちゃんを見つめる。すると、プリントを配り始めた。
 よかった。ちゃんと配ってくれて。あの子が配らないと、私が怒られる。
 そう思いながら、窓の外を見る。
 私の席は、窓際の後ろから二番目。
 天気がいい日は日の光が入ってきて気持ちいい。

「……暇だな」

 そう呟くと、後ろの席で吹き出す音が聞こえた。
 後ろを向くと、こちらを楽しそうに見つめている男子生徒がいる。

「暇なら、俺と遊ばない?」
「……遊びません」

 そう言って再び前を向くと、その人が私の肩を突いた。
 無視。無視。
 そう思って反応しないでいると、今度はサイドで一つに束ねている髪を引っ張ってきた。

「やめて」

 後ろを向いて言うと、その人は楽しそうにニヤッと笑って言った。

「今日、一緒に帰ってくれたらやめてあげる」
「……一人でどうぞ」
「何で?」
「じゃあ、逆に聞くけど、どうしてあなたと帰らないとダメなの?迷惑」
「神村さんは、俺と帰る義務がある」
「……は?」

 私は、眉を寄せてあからさまに嫌そうな顔をする。
 でも、いくら私でも誰これ構わず嫌そうにするわけじゃない。
 この人は、特別嫌い。
 大嫌い。
 この人を好きにならないと明日地球が滅ぶと言われても、絶対に好きにならない。
 この人の名前は九条 奏多(くじょう かなた)。
 九条 日向の双子の弟。でも、弟だからって理由で嫌っているわけじゃない。
 この弟、こいつも兄と一緒で、女好きなんだ。
 顔が似てて、女好きってところも一緒って……双子って、すごいな〜……。

「義務なんてないから」
「えー……ケチ」
「……今日も、女の子に一緒に帰ろうって誘われてたじゃない。その子たちと帰れば?」
「何?ヤキモチ?」
「……はっ。勝手に言ってろ」

 そう言ってもう一度前を向く。
 授業中に話して大丈夫なのかと思うが、私の学校は大丈夫。学校というか、クラス。
 私のクラスは、みんなうるさい。授業中なのにみんな話しまくる。
 先生に注意されても、一時はやめるけど、また話し始める。
 まぁ、みんなヤンキーってわけじゃない。元気なだけ。うん。きっと、そうだ。
 昔は、ガラスを割りまくったり、暴力事件を起こしたり、犯罪、いじめなどなどでいろいろしてたヤンキーがいたらしいけど、今はそんな事ない。
 すごく良くなったって、先生も言ってた。

「皆さんっ!静かにしなさい!!」

 先生の怒声が飛ぶ。
 でも、みんなギャーギャー騒いだままだ。
 バカじゃないの。

「ねぇ。神村さん」

 呆れていると、また後ろから声をかけられる。

「な、何?」
「みんなに静かにしてほしい?」

 机に突っ伏しながら聞いてくる九条君。

「そりゃあ……できる事なら」
「一緒に帰ってくれるなら、なんとかしてあげる」

 はぁ……!?
 まぁ、こいつらを静かにさせる事なんて、できないよね。

「……いいよ。静かにさせれたらね」

 そう言うと、九条君はニヤッと笑った。

「約束、守れよ」

 何こいつ。すっげー自信。
< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop