不埒な先生のいびつな溺愛
先生はずいぶんと大人しくしている。

私はまずネクタイの端と端を合わせ、どこを中心にするかを測った。そして狙い目が決まると、それが先生の首のちょうど後ろに来るように、彼の首にかけた。

襟の中に入れ込んで、細いほうが少し短くなるように、シュルシュルと動かして中心をずらした。

先生は相変わらず、シャンプーの香りがする。

「えーと、こっちに回して、と……」

独り言を言いながら手を動かしていくが、簡単にはいかなかった。もしかしたら、先生が自分でやったほうが早いのかもしれない。

でも先生は、じっと動かず待っていた。

結び目をクッと上に引き上げると同時に、先生の目を覗き込んだ。

「先生、苦しくないですか?」

「べ、べつに」

至近距離で合った目線を、先生はすぐに逸らした。

この間から、先生はやけに照れることが多い。トゲのある言葉を言われても、こういう言い方なら可愛いものだ。なんだか高校時代に戻った気がする。

「もうちょっとですから、動かないで下さい、先生」

金のピンをネクタイの中程につけた。

仕上げに、彼の襟のところ、スーツの重なりあったボタンのところ、耳にかけられた髪の毛のところ、それを順々に指先で整えていく。

耳に触れたとき、先生はピクリと反応した。
その耳が赤く染まっていき、触ると熱を持っていた。

「や、めろ、美和子。もう、いいっ」

「はいはい、もう少しですから」

先生は私の肩を押し返して、一歩後退りをした。

「美和子……」

触りつづけていると、先生の視線は、少しずつ熱を帯びてきた。
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