恋慕
どくっ、
鼓動が高鳴る。

その直後、
コン、コン、コン、
とドアが3つ鳴り、
私が返事をする間もなく
ドアが開いた。

現れたのは
背の高い黒っぽいスーツの男性。

黒に近いグレーのダブルスーツ。
黒とシルバーの
はっきりとしたストライプのシャツ。
彩度を押さえた紫のネクタイ。
そして鋭い眼と
きちんと撫で付けた黒髪。

私は目立たないように
深呼吸をする。
そしてゆっくりと立ち上がり
余裕のある振りをして微笑んだ。

「こんにちは。」

彼は手にしていたものを
テーブルの上に置き
丁寧に優雅に礼をする。

「ご無沙汰しております、
 三条先生。」

頭を上げた彼は
テーブルの上に置いた名刺入れから
名刺を一枚抜き取り
両手で私に差し出した。
私がそれを受け取ると、
彼は手で私にイスを勧める。
言われたとおりに
元のイスに座りなおした。

でも私の目は彼に釘付けされていた。

やはり過ぎた時間を感じながらも
変わらない本質をも
感じずにいられなかった。


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