仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

私の自己紹介の後、クライアントの彼がクスクスと可笑しそうに微笑む。

「なんでもやり遂げる自信か。凄いね」

彼の声が、私の耳を溶かすように甘く低く響いた。その声音にますます身震いしそうになる。


彼は椅子を引き長い足を組み替えると、端麗な甘い面差しに甘やかな笑みを浮かべた。

「それじゃあ君の熱意を酌んで、うちの企画をお願いしようかな？」

彼は長い睫毛に縁取られた美しい二重目蓋を、ゆっくりと柔らかく細めた。

「あっ」

琥珀の上で蜂蜜が蕩けているかのような瞳に、胸がきゅうっと締めつけられる。
まるで自分が溶けていきそうな魅惑的な表情に、思わず唇から感嘆の溜息とともに音がこぼれた。

それから一瞬の間の後、彼の告げた言葉をようやく脳が理解し、私は目を見開く。

「あ、ありがとうございます！　本当にありがとうございます！」

まさかこんな風にお仕事が決まるなんて。

「精一杯、いえ、それ以上に頑張ります。どうぞ宜しくお願い致します！」

勢いよく頭を下げる。
窮地から救ってくれた王子様へ、私は心からの忠誠を誓った。